【刑の一部執行猶予制度】
間もなく始まる「刑の一部執行猶予制度」について検討してみましたが、この制度は、弁護人にとっても非常に取り扱いが難しい制度だと思います。
そもそも刑の一部執行猶予制度は、近年犯罪者の再犯防止が重要な課題となっていることに鑑み、保護観察等の充実強化を図るために、刑務所に入所したことがない者や、薬物犯に対し、刑の一部の猶予をするものです。なお、薬物犯については、一部猶予判決に際し、保護観察に付することが必要的となっています。
実際の例でみると、例えば、①平成25年2月に覚せい剤使用で「懲役1年6月、執行猶予3年」となった者が、②平成28年2月に「懲役2年、うち懲役6月を2年の保護観察付き執行猶予に付する」となりそうな場合、弁護人として、これを主張すべきでしょうか。
この場合、刑の一部執行猶予がなければ、全部実刑判決となる事案です。そうすると、6か月早く社会復帰できる刑の一部執行猶予を主張すべきとも思えます。他方で、受刑者には仮釈放制度があり、受継期間の満期を迎えなくとも出所できる可能性もあります。
上記の事案で、被告人に、刑の一部執行猶予と仮釈放のどっちを狙った方がいいかと聞かれれば非常に迷います。仮釈放は受刑者の生活状況等にもよるために正確に釈放時期を指摘できませんし(仮釈放される人のうち割合的に多いのは8割~9割くらいの刑期を過ぎた者か)、「多少受刑期間が長くなっても、一部猶予なんてしてもらわずに仮釈放で出所して保護観察がつかない方がよい」という被告人もいるかもしれません。
被告人とよく話し合って決めることはもちろんですが、制度運営がどうなるかよくわからない中で、「よく話し合って決める」というのは、被告人にとっても弁護人にとっても酷なように思います。
また、一部執行猶予は、実刑を前提にした弁護活動になるため、実刑を争う場合には一部執行猶予の主張もしにくいと思われます。
刑務所内の受刑者が減ることは良い一方で、早めに出所した受刑者の保護観察を担当する保護観察官の負担も大きくなります。