【不動産賃貸借における撤去等】

2015年01月19日

今回は、不動産賃貸借における無断立入り、鍵交換に関する裁判例について、お話しします。
家を貸している方にとって、借主が賃料を払わない、ご近所トラブルなどの諸問題がありますが、一つ重大な問題として挙がるのが、「部屋を無断で出ていき連絡がとれない」といった状況です。貸主としては、勝手に片づけてよいものやら、迷う所です。この点につき、裁判例を見ていきます。

1 店舗賃貸借の例(東京地判昭和47.5.30)
店舗賃借人から、「明渡しまで6か月猶予してもらいたい」との要請を受け、同期間を待ち続けた賃借人が、業を煮やして無断で侵入。扉の内部からベニヤ板を打ち付け、かつ施錠した事案です。
約40年前とはいえ、やりすぎかなあと感じる事案ですが、案の上、裁判所は、賃貸人の行為を違法とし、24万円余りの賠償を命じました。

2 公営住宅の例(大阪高判昭和62.10.22)
公営住宅の賃借人が荷物を置いたまま転居していた際に、公団職員が玄関の鍵を壊して内部に立入り。鍵を取り換え、残置物を搬出・廃棄したものです。
公団職員の方、思い切ったことをしたなあと感じますが、やはり違法と判断され、慰謝料を含む総額13万円の支払を命じられました。

3 「残置物の自由処分」条項があったケース(東京高判平成3.1.29)
現在、多くの貸主が入れていると思いますが、契約書に「借主が貸主の指定する期限内に残置物を搬出しないときは、貸主は、これを搬出・保管及び処分することができる」といった条項です
この条項に基づき、賃料の支払いを遅滞したクラブ経営者の賃借人に対し、賃貸人が建物の入口に鍵を取り付け、内部の造作・家具等、什器、備品等を処分したケースがありました。裁判所は、事前の承諾を認めず、残置物撤去のかかる行為の違法性を認め、10万3000円の賠償を認めました。

4 雑感
近時にも色々と裁判例が出ていますが、雑感を述べますと、「賃貸人が適法に処理しようと努力しているかどうか」がポイントになっていると思われます。 具体的には、①賃借人の任意の履行を促す、②明渡しの催告を行い、明渡しまでの合理的期間を設定する、③契約書には、残置物の搬出条項を入れる。できれば、明渡時に近い時期にも、「念書」といった形で物品撤去の承諾を得ておく、④やむを得ず動産撤去をする場合にも、写真撮影等で現場保存し、撤去したものの目録を作る、⑤残置物をすぐに処分せずに一定期間保管し、取りに来るよう催告する、といった内容です。
もちろん、これらを行っても100%適法となるわけではありませんが、「法律を守ろうとする貸主の努力」が賠償請求を求められた際の違法性に影響したり、損害額(過失相殺等)として考慮されているように思われます。

気になる特約について
物件の明渡しにおいて「契約終了時から明渡しまので期間につき、賃料相当損害金として、賃料の倍額の金員を支払うものとする」との条項も有効とされています。5万円の賃料の場合、月額10万円の損害金です。裁判でも見かけたことがありますが、明渡しを促す心理的効果があると思われます。