弁護士コラム

新しいコラム

【小規模宅地等の特例】

2015/3/3

先回、相続税法改正により、これまで相続税とは無縁であった方々が、相続税を支払う可能性について述べました。そこで、このような状況の下で課税を避けるために重要な手段として挙げられるのが、「小規模宅地等の特例」です。

この特例が適用されれば、自宅の土地の評価額が、最大330㎡まで8割も減額されます。 多くのケースにおいて、相続財産の中で割合を占めるのは、現金でも預金でもなく、やはり不動産です。ただ、建物は老朽化し価値も下落しますので、不動産の中でも土地がカギとなります。この土地の評価が8割減額されるというのは、相続税の課税の有無に大きく影響するといえるでしょう。

なお、小規模宅地等の特例の結果、相続税の支払いが不要となる場合でも、相続税の申告が必要です。遺産分割調停などを受任しておりますと、相続人間で話し合いが整わず、相続の開始を知ってから10か月を超えるような事案もあります。相続人間の利益調整も重要ですが、相続税の申告との関係で、どのように折り合いをつけるかという視点もお持ちになられるとよいでしょう。



【婚姻費用】

2015/2/3

1 婚姻費用とは
別居期間等、今後の夫婦関係をどうしていくのかを考える間、「婚姻費用」の支払額をいくらにすべきかという問題があります。
「婚姻費用」と聞くと、なんだか結婚費用のようにも聞こえますが、内容としては、生活費のことです。
家庭裁判所においては、いわゆる「養育費・婚姻費用算定表」に基づき話合いが行われることが多く、情報流通が発達した現代において、弁護士委任をしていない方も、この表を前提に言い分を述べることがまま見られます。
そこで、今回は、上記算定表を用いるにあたって注意すべき点(算定表自体の見直し論は置く)を思いついたまま挙げます。

2 留意点
□ 住宅ローンが高額 結婚後購入した高額のマンションがあり、毎月高額のローンを支払っているといったケースです。この高額なローンを夫側が負担しているなどとして、費用を全額控除してしまうと、婚姻費用が大きく減ってしまいます。その結果、夫婦間の生活保持義務よりも、高級マンションの維持という資産形成を優先することとなってしまうおそれがあります。この場合には、標準的な住宅ローン負担額を念頭におき、算定表を一部修正する必要が出てくる場合があります。

□ 相手が無職
「今、仕事していないので払えません」といった言い分もあります。 これについて、一方の収入をゼロとして算定表に当てはめると、婚姻費用が極端に低額になってしまうことがあります。この場合には、稼働可能性及び稼働していないことにつき正当な理由があるかといった点を考慮し、修正を求めることがあります。「潜在的稼働能力」とも言いますが、働けるのに働かない状態でいる結果、婚姻費用の支払いがないとするのは不公平なので、このような考慮をすべきと主張します。

□ 私立学校負担金
標準的な教育費の負担を前提にすると、子を養育する側の負担が過度に大きくなってしまう場合があります。この場合には、現実に要する私立学校負担金の資料等を提出し、実態にあった教育費が支払えるように、算定表を修正する必要性を主張します。

3 まとめ
以上、ざっと掲げてみましたが、単純に双方の収入を照らし合わせるだけでは、的確な婚姻費用が決定されないケースもあります。
もちろん、双方合意の上で婚姻費用の支払いがなされることが望ましいと言えますが、折り合いがつかない事態を考え、理論的な説明をできるように、事前に準備をすることが有効といえるでしょう。



【不動産賃貸借における撤去等】

2015/1/19

今回は、不動産賃貸借における無断立入り、鍵交換に関する裁判例について、お話しします。
家を貸している方にとって、借主が賃料を払わない、ご近所トラブルなどの諸問題がありますが、一つ重大な問題として挙がるのが、「部屋を無断で出ていき連絡がとれない」といった状況です。貸主としては、勝手に片づけてよいものやら、迷う所です。この点につき、裁判例を見ていきます。

1 店舗賃貸借の例(東京地判昭和47.5.30)
店舗賃借人から、「明渡しまで6か月猶予してもらいたい」との要請を受け、同期間を待ち続けた賃借人が、業を煮やして無断で侵入。扉の内部からベニヤ板を打ち付け、かつ施錠した事案です。
約40年前とはいえ、やりすぎかなあと感じる事案ですが、案の上、裁判所は、賃貸人の行為を違法とし、24万円余りの賠償を命じました。

2 公営住宅の例(大阪高判昭和62.10.22)
公営住宅の賃借人が荷物を置いたまま転居していた際に、公団職員が玄関の鍵を壊して内部に立入り。鍵を取り換え、残置物を搬出・廃棄したものです。
公団職員の方、思い切ったことをしたなあと感じますが、やはり違法と判断され、慰謝料を含む総額13万円の支払を命じられました。

3 「残置物の自由処分」条項があったケース(東京高判平成3.1.29)
現在、多くの貸主が入れていると思いますが、契約書に「借主が貸主の指定する期限内に残置物を搬出しないときは、貸主は、これを搬出・保管及び処分することができる」といった条項です
この条項に基づき、賃料の支払いを遅滞したクラブ経営者の賃借人に対し、賃貸人が建物の入口に鍵を取り付け、内部の造作・家具等、什器、備品等を処分したケースがありました。裁判所は、事前の承諾を認めず、残置物撤去のかかる行為の違法性を認め、10万3000円の賠償を認めました。

4 雑感
近時にも色々と裁判例が出ていますが、雑感を述べますと、「賃貸人が適法に処理しようと努力しているかどうか」がポイントになっていると思われます。 具体的には、①賃借人の任意の履行を促す、②明渡しの催告を行い、明渡しまでの合理的期間を設定する、③契約書には、残置物の搬出条項を入れる。できれば、明渡時に近い時期にも、「念書」といった形で物品撤去の承諾を得ておく、④やむを得ず動産撤去をする場合にも、写真撮影等で現場保存し、撤去したものの目録を作る、⑤残置物をすぐに処分せずに一定期間保管し、取りに来るよう催告する、といった内容です。
もちろん、これらを行っても100%適法となるわけではありませんが、「法律を守ろうとする貸主の努力」が賠償請求を求められた際の違法性に影響したり、損害額(過失相殺等)として考慮されているように思われます。

気になる特約について
物件の明渡しにおいて「契約終了時から明渡しまので期間につき、賃料相当損害金として、賃料の倍額の金員を支払うものとする」との条項も有効とされています。5万円の賃料の場合、月額10万円の損害金です。裁判でも見かけたことがありますが、明渡しを促す心理的効果があると思われます。



【終活のススメ】

2014/12/3

前回、相続にまつわる話をしましたが、相続人間に争いが生じることから「争続」と呼ばれることもあります。
今回は、就職活動の略語としての「シュウカツ」ならぬ、自分の最後に向けての「終活」についてです。

飛ぶ鳥跡を濁さず。
自分の死後は、すっきりさせた上で周囲に迷惑をかけたくないものですが、そのためには相当な準備が必要です。冒頭述べた相続以外にも、老後の生活資金、介護の方法、施設への入居の有無、葬儀の形式、ペットの扱い、事業承継など、問題は尽きません。これらの問題を解決するためには、信託、死因贈与などの法律問題はもちろん、既存の利用可能な民事・行政制度も踏まえつつ、費用対効果を考えて対策をとる必要があります。

よい終焉を迎えるために、一度、自分の終活について考えてみることも重要です。

なお、今回のコラムにあたっては、以下の本を参考にしました。
『終活にまつわる法律相談』(安達敏男弁護士、吉川樹士弁護士著、2014、日本加除出版)



【争いのない相続】

2014/11/14

早いもので、今年もあと一か月足らずですが、来年より相続税制が大きく変わります。

平成27年1月1日以後になされる相続については、従来の基礎控除額が5000万円+(1000万円×法定相続人の数)から、3000万円+(600万円×法定相続人の数)となる予定です。

簡単にいうと、基礎控除額が40%もカットされるもので、これまで多くの方に無縁だった相続税の問題が、クローズアップされることが予想されます。

また、相続問題につきましては、遺言の作成が推奨されることもありますが、ただ単に遺言によって遺産全部を一人に相続させた場合、他の相続人の遺留分を侵害し、これがもととなって、長期の紛争となる可能性もあります。

このように、相続問題においては、財産の多寡にかかわらず、法律上の問題になり、後世に禍根を残すことにもなりかねません。争いのない相続を実現するべく、一度、自分の相続について、専門家の意見を聴くことも有効と言えるでしょう。



【物損訴訟について】

2014/10/22

当事務所では、交通事故の訴訟案件が比較的多いと思われますが、その中で、物損につき、どのような場合に訴訟になりやすいのか、分類してみました。

1 積載物損害パターン
事故により、車内にあった物品等が損壊されたというパターンです。事故後、すぐに現場確認が行われればよいのですが、実況見分の際には、道路状況や自動車の破損状況等のみに注意が払われ、車内にある積載物にまで目が届きません。これにより、事故当時に、「物品が載っていたか」どうかをめぐる訴訟が行われるケースがあります。

2 過失割合パターン
交通事故訴訟の争点の中で最も多いかもしれないのがこのパターンです。自動車事故においては、運転者は、多かれ少なかれ「いつも通り運転していたのだから自分は悪くない」との認識をもつケースが多いです。他方、交通事故の過失割合については、裁判例上、多くの場合、事故パターンごとに基本となる過失割合をどのようにすべきか類型化されています。
こうした基本となる過失割合と運転者の認識が食い違う場合、双方納得のもとに示談に至ることができず、訴訟となるケースが多いです。

3 評価損パターン
初めて交通事故を起こした自動車は、事故歴のある車となり、売却時点において価格の下落が生じえます。これを評価損と言います。裁判例上は、購入時期、走行距離、損壊の程度、車種などにより、一定のケースにおいて、この評価損を認めています。もっとも、運転者としては、愛車を傷つけられた以上、新しかろうが古かろうが、元に戻るだけの賠償をしてほしいと考えることでしょう。
このような認識の下、事故歴のある自動車になったことの賠償をめぐって訴訟が起こされるケースがあります。

4 小括
かつては、以上のような物損事故については、修理費よりも弁護士費用の方が高くつき、弁護士に依頼して訴訟に至るケースは多くなかったと思われます。もっとも、現在は、任意保険に付帯する弁護士特約に基づき、自己負担なく、訴訟・交渉を行えるケースが多くあります。なお、お怪我が生じた時には、弁護士を頼むか否かで、さらに獲得金額が大きく異なるケースがあります。示談前に、一度、自分の事故について、妥当な賠償額なのか否か、相談してみることもよいでしょう。



【契約書の作成について】

2014/8/28/

契約書類等を作成する際に、気を付けている点はあるでしょうか。

市販されているひな形の中には、契約当事者の立場ごとに用意するのではなく、契約類型ごとに一種類だけ用意されているものもあります。しかしながら、契約当事者というものは、常に利害対立があるものであり、一方にとって最良の契約書は、他方にとって最悪の契約書ということになります。

さらに、例えば、「請負」という契約一つをとってみても、取引対象、時期、作業工程、契約不履行の危険性及びそのリスク負担など、個々の取引によって、理想とされる契約書は全く異なるものになります。

あらゆる契約書類について、専門的なリーガルチェックを受けることは、費用対効果を考えるとお勧めできませんが、重大な権利変動を生じさせるような書類については、一度、専門家によりリーガルチェックを受けることをお勧め致します。



【死後の事務】

2014/8/11

自分の死後、葬儀や預金の引き出し、残置物の処理などをどのようにすればよいのでしょうか。

民法では、誰かに法律事務を委任することができる旨の定めがあります(委任契約)が、委任者の死亡により、このような契約は終了するのが原則です。

もっとも、委任者の死亡によって契約が終了しないとの合意がある場合には、このような合意も有効とされています。

例えば、委任者が、入院中の病院への支払、死後の葬式を含む法要等の費用、お世話になった家政婦や友人への応分の謝礼金を依頼したケースで、自分の死後の事務を含めた法律行為等の委任契約には、死後、当然には契約を終了させない旨の合意が含まれているとしたものがあります(最高裁判例平成4年9月22日)

また、委任者が僧侶に対し、自分の写真をお墓に納めて永代供養してほしいと依頼したケースについても、委任者の死亡後も、この契約が継続すると判断したものがあります(東京高等裁判所平成21年12月21日)

このように死後の事務に関しては、「死」という予期しがたい出来事のもとで、関係者が相続法理と抵触しないよう手探りで行っているというのが実情のようで、ケースに応じた柔軟な対応が求められます。

このような事態が生じぬよう、生前に遺言等により、死後の財産処理方法をあらかじめ明示しておくことも重要でしょう。



【公正証書の作成】

2014/7/22

1. 公正証書とは

公正証書は、公証人が公証人法・民法などの法律に従って作成する公文書です。
通常、金銭の貸借や養育費の支払など金銭の支払を内容とする契約の場合、債務者が支払をしないときには、裁判を起こして裁判所の判決等を得なければ強制執行をすることができませんが、公正証書を作成しておけば、すぐ、執行手続きに入ることができます。
また、公証人の面前で作成された公正証書は、証拠としての価値も高いものといえます。

2. 公正証書の交付送達

公正証書に基づき強制執行ができるといっても、債務者へ公正証書が交付されていることを証明する送達証明書が必要となります。
当事者が集まって公正証書を作成する際に、公証人から「交付送達はどうされますか」などと尋ねられた際は、念のため、交付送達をお願いしておくのが望ましいでしょう。



【自動車運転死傷行為処罰法】

2014/6/16

平成26年5月20日より、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」、通称「自動車運転死傷行為処罰法」が施行されました。

これまでの死傷事故には刑法の自動車運転過失致死傷罪(最高で懲役7年)が適用されることが多く、飲酒などで「正常な運転が困難な状態」での悪質事故を処罰する危険運転致死傷罪(同20年)での立証は難しいものでした。
飲酒運転事故でも危険運転致死傷罪の適用が見送られることが多く、遺族などからは「刑罰が軽すぎる」との指摘がありました。新法では、酒酔いとまではいえない運転などで死亡事故を起こした場合、最高で懲役15年の危険運転致死傷罪に問われます。無免許ですと、最高で20年となります。

茨城県内の飲酒運転摘発件数は、2009年の1,358件から2013年の1,307件まで横ばい状態で推移しています。
刑罰の重さにかかわらず飲酒運転は許されませんが、今回の法改正により、県内の飲酒運転事故件数が減少することが期待されます。


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