弁護士コラム

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【自首の成立】

2016/10/3

刑法には、罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首した場合、その刑を減軽することができると規定されています(刑法42条1項)。もっとも、ここにいう「自首」には細かい要件があります。

自発的申告
自首と言いうるためには、自ら進んで申告することが必要です。そのため、既に嫌疑をかけられている取調べにおいて犯罪事実を申告しても自首にはあたりません。

自己の訴追を求める処分であること
犯罪事実を申告したものであるとしても、自己の責任を否定するような申告である場合には、自首にあたりません。

捜査機関に対する申告であること
条文上、「捜査機関に」とあるので、検察官や司法警察員に対して申告する必要があります。
また、ここでの申告の方法は、「口頭」も含まれますが(刑事訴訟法245条に準用される同法241条)が、いつでも捜査機関の支配内に身を置ける状態であると解されるのが一般的です。そのため、例えば、携帯電話で犯罪事実を申告しつつ、出頭もせずにどこにいるか不明という場合には、自首は成立しないと考えられます。

捜査機関に発覚する前の申告であること
発覚とは、犯罪事実そのものだけでなく、犯人が誰かという点も含まれます。しかしながら、犯人の所在が不明であるというだけでは、発覚前ということはできません。

以上、日常的に言われている「自首」よりは、法律の方が厳しい要件になっていると思われます。もっとも、刑法上の自首に該当しない場合にも、量刑上、有利な事情として斟酌することはあり得るので、この点に留意する必要があります。



【神栖市の教育1】

2016/8/12

平成28年8月9日、神栖市矢田部公民館において、井上一郎先生(京都女子大学)をお招きし、学力向上フォーラムが行われました。題して、「神栖の挑戦 アクティブラーニングへの道」です。

「アクティブラーニング」という言葉に聞き慣れない人が多いかとは思いますが、現在、学校の授業が劇的に代わりつつあります。

以前は、前を向いて授業を聞き、板書を写すといった授業スタイルが一般的だったかと思いますが、現在は、生徒同士で向き合い、個人、グループ、クラスのそれぞれの観点から、生徒が主体的となった授業スタイルになっています。

大学入試も、従前のセンター試験のような穴埋め問題から、発想力・自己表現力などの求められる記述式の試験になるなど変化する予定です。

大量生産・画一性の求められた社会から、個々人の個性を社会に還元していく時代へと変容するため、教育も変わっていかねばならないように思われます。



【時効中断事由となる催告】

2016/8/4

民法には時効制度がありますが、「催告」と呼ばれる手続きをすると、6ヶ月間、時効が中断されます(民法153条)。

「6ヶ月」とだけ何となく知っている方も多いかもしれませんが、以下の点に留意が必要です。

①催告の効果があるのは1回目だけで、2回目の催告をしても時効中断効は認められない

②時効中断効があるのは、「催告時」から6ヶ月であり、「従来の時効完成時」から6ヶ月ではない

この②についてですが、例えば、時効期間の満了が平成28年12月20日である貸金債権につき、平成28年10月末日に催告書を債務者に送付した場合は、平成28年10月末日から6ヶ月後(平成29年4月末日)までに裁判上の請求等をすれば時効は中断します。従来の時効完成時から6か月ではないので、注意が必要です。

このような時効の中断で悩まずに、裁判上の請求をする場合には、余裕をもって速やかに行っていくことが望ましいと言えます。



【自動車関連犯罪・情報提供報奨金制度】

2016/7/1

平成28年7月1日より、皆様からの下記犯罪情報により犯人を検挙した場合は、茨城県自動車盗難等防止対策協議会より報奨金(1~3万円)が支払われます。

▼対象とする犯罪
 茨城県内で発生した
 ・自動車盗
 ・車上ねらい
 ・部品ねらい(自動車に対する犯罪に限る。)等

これまでも、一定の重大犯罪等、情報提供に対する報奨金がありましたが、今回は、広く自動車に関連する犯罪が対象となるとのことです。詳しくは、茨城県警のホームページまで。



【らーめん頑固一徹堂】

2016/6/13

火災のため、しばらく休業していた「らーめん頑固一徹堂」(神栖市神栖1-4-35)ですが、早ければ、平成28年6月26日(日)より、再開されるようです。

定休日  月曜日
営業時間 午前10時30分くらい~午後2時くらい
     午後6時くらい~午後9時くらい

人気ラーメン店の復活は喜ばしい限りですが、太らないように気をつけなければなりません。



【録音の違法性】

2016/5/23

裁判において、録音データは証拠価値が高く、重宝されます。私も相談の際は、裁判準備のための秘密録音で違法になることはまずないので、録音しても構いませんとアドバイスすることが多かったかと思います。

もっとも、平成28年5月19日、パワハラ問題を審議する委員会の調査が不十分であるとして、私立大学の職員が勤務する大学を訴えていた裁判において、東京高裁は、「録音することの違法性の程度は極めて高い」として証拠排除しました。

証拠排除が認められた例は多くないですが、今回は、ハラスメント調査委員会の秘匿性の高さを理由に違法性が認められたようです。その意味で、日常生活一般における録音データの違法性を認めたものではなく、汎用性の高い裁判例とは言えませんが、録音データの裁判利用について、一定の歯止めがかけた事例と評価できます。



【賃金センサスの利用】

2016/4/22

交通事故等の損害賠償請求において、当該交通事故がなければこれだけ賃金を得られたと主張する場合に、賃金センサス(統計法に基づき実施されている賃金構造基本統計調査の報告書)の利用があります。

賃金センサスと一概にいっても、種類が色々あります。平成18年からは、賃金センサスにおける調査結果が5分冊になって報告されるようになりました。

最も多く見受けられるのは、日弁連交通事故センター発刊の損害賠償算定基準(いわゆる「赤い本」)にもある、第1巻第1表の企業規模計・産業計の平均賃金であろうかと思います。もっとも、例えば、第3巻第1表、第2表には、部長・課長といった役職別の平均賃金が記載されており、第5表・第6表には、タクシー運転者、理容・美容師、医師、大学教授といった職種別の平均賃金が記載されております。

仮に賃金センサスを適用する場合でも、どのようなケースにおいて、どの賃金センサスを適用するのが適切かも検討することが必要です。



【OPLL】

2016/4/6

OPLLとは、後縦靭帯骨化症のことです。頸部の靭帯の中には、前方から、前縦靭帯、後縦靭帯、黄色靭帯といった靭帯があります。このうちの後縦靭帯について、特にアジア人の3%くらいに見られるようですが、靭帯が骨化し、椎孔内にある脊髄の入っている脊柱管が押されて、感覚障害や運動障害等の神経症状を引き起こすことがあります。

レントゲンをみると、一見、神経異常があるかのようにも見えますが、CTで脊柱管内が白く骨化していると、OPLLではないかとようやくわかります。

裁判例においては、事故と神経障害の因果関係を認めた上で、このOPLLを減額理由となる素因と認め、3割の素因減額をしたものがあります(最判平成9年4月30日)。

OPLLといっても、一概にその程度や事故への影響を論じられませんので、その言葉に拘泥することなく、個別のケースごとに判断することが必要です。



【民法改正その1~消費貸借契約 要物性or書面性】

2016/3/29

成立の予定されている民法案では、諾成的消費貸借契約が明文化されました。

(新設)
「第587条の2 前条の規定にかかわらず、書面でする消費貸借は、当事者の一方が金銭その他の物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。」

従来より、民法589条において、「消費貸借の予約」が規定されており、消費貸借の要物性は徹底されていませんでした。解釈上も、諾成的消費貸借契約が認められていました(最判昭和48年3月16日)。

改正法では、この点を明文化しつつ、消費貸借の意思確認を確実にするために書面によること(要式性)を定めました。



【松葉会館一般閲覧会】

2016/3/8

平成28年3月6日、守谷市が購入した元松葉会館の一般閲覧会が開催されました。

(元松葉会館 外観)

(施設概要)


入口におけるスロープの設置、女子トイレの開設等、整備すべき点もあると思われますが、市民が有効に利用できることを願ってやみません。



【JR東海認知症事故賠償訴訟】

2016/3/2

平成28年3月1日、認知症の男性(91歳)が徘徊中に線路に立ち入り、列車にはねられて死亡する事故をめぐり、JR東海が男性の遺族に損害賠償を求めていた事件の判決がありました。
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/714/085714_hanrei.pdf(最高裁判決文PDF)

最高裁判所は、男性の妻に損害賠償責任を認めた第2審判決を破棄し、JR東海の請求を棄却しました。

判決の判断枠組みとしては、
・認知症の人と同居する配偶者であっても、直ちに監督責任があるとはいえない
・民法714条に監督責任者に当たるか否かは、介護の実態などの事情を総合考慮して判断すべき
との前提の下、妻が現実的に介護できる立場になかったこと、長男も20年以上別居していたことなどから、監督責任者に当たらないとしました。

この判決は、一律に監督責任者に当たるか否かを判断せず、介護実態などの総合事情から判断するとしている点で、事案に即した柔軟な結論を導くことができると思われます。この他に、過失相殺による大幅な請求額の減額もあり得るかとも予想しておりましたが、この考えは採られませんでした。

請求を棄却されたJR東海に対しては、認知症事故を防止する取組みができるよう補助したり、保険利用による損失補償などを検討し、社会全体で認知症の方を受け入れる体制作りが必要となってくるでしょう。



【運行起因性】

2016/2/9

自動車損害賠償保障法3条は、「自己のために自動車の運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる」と定めています。

この「運行」について、自賠法2条2項は「人または物を運送するとしないとにかかわらず、自動車を当該装置の用い方に従い用いること」と定義します。

しかしながら、この定義によっても、なにが「自動車を当該装置の用い方に従い用いること」なのか具体的に明らかではありません。

まず、「運行によって」の解釈について、①駐車車両(駐車禁止場所、パーキングスペースなど)、②荷積荷卸ろし、など、「運行」といえるかが問題となる場面があります。

また、「装置」についてもシートベルト、ステップ、エアコンなど、どこまでを指すのか文言上明らかではありません。

これらを解説する文献もありますが、なかなか理論的にすっきり説明できているとは思われず、明確な駿別には事例の集積を待つほかないようにも思います。



【労務管理】

2016/1/18

今回は、労務管理上の工夫について、何点か述べます。

1 休憩時間
これを明確に定めている会社は多くないと思いますが、以下のように変更することが考えられます。

【改訂前】 始業 8時15分 終業17時
【改定後】 始業 8時15分 終業17時20分(原則として、休憩時間は、午前10時、午後3時からそれぞれ10分間とする。

このようにしておくと、例えば、タバコ休憩する人とそうでない人との不公平感を解消できますし、残業代の削減にもつながります。もっとも、現実に、「午前10時に手が離せないので休憩が取れない」といった不満が出ないように、代替要員の確保をするなど、休憩時間に実際に「休憩」できるような配慮も必要です。

2 退職時の引継ぎ
退職は、必ずしも円満に行われるとは限りません。そこで、就業規則において、退職時の引継義務について明記しておくことが考えられます。もちろん、話合いにより納得して退職に至ることが望ましいですが、法的リスクを考慮することも必要です。

3 就業規則
就業規則は、一方的に従業員に不利益に変更することは原則としてできませんので、所定の手続きを踏むようにしましょう。



【刑の一部執行猶予制度】

2016/1/6

間もなく始まる「刑の一部執行猶予制度」について検討してみましたが、この制度は、弁護人にとっても非常に取り扱いが難しい制度だと思います。

そもそも刑の一部執行猶予制度は、近年犯罪者の再犯防止が重要な課題となっていることに鑑み、保護観察等の充実強化を図るために、刑務所に入所したことがない者や、薬物犯に対し、刑の一部の猶予をするものです。なお、薬物犯については、一部猶予判決に際し、保護観察に付することが必要的となっています。

実際の例でみると、例えば、①平成25年2月に覚せい剤使用で「懲役1年6月、執行猶予3年」となった者が、②平成28年2月に「懲役2年、うち懲役6月を2年の保護観察付き執行猶予に付する」となりそうな場合、弁護人として、これを主張すべきでしょうか。

この場合、刑の一部執行猶予がなければ、全部実刑判決となる事案です。そうすると、6か月早く社会復帰できる刑の一部執行猶予を主張すべきとも思えます。他方で、受刑者には仮釈放制度があり、受継期間の満期を迎えなくとも出所できる可能性もあります。

上記の事案で、被告人に、刑の一部執行猶予と仮釈放のどっちを狙った方がいいかと聞かれれば非常に迷います。仮釈放は受刑者の生活状況等にもよるために正確に釈放時期を指摘できませんし(仮釈放される人のうち割合的に多いのは8割~9割くらいの刑期を過ぎた者か)、「多少受刑期間が長くなっても、一部猶予なんてしてもらわずに仮釈放で出所して保護観察がつかない方がよい」という被告人もいるかもしれません。

被告人とよく話し合って決めることはもちろんですが、制度運営がどうなるかよくわからない中で、「よく話し合って決める」というのは、被告人にとっても弁護人にとっても酷なように思います。

また、一部執行猶予は、実刑を前提にした弁護活動になるため、実刑を争う場合には一部執行猶予の主張もしにくいと思われます。

刑務所内の受刑者が減ることは良い一方で、早めに出所した受刑者の保護観察を担当する保護観察官の負担も大きくなります。



新年のご挨拶

2016/1/1

新年明けましておめでとうございます。

早いもので、私も弁護士登録をして6年目となりました。

昨今は、法律事務所に相談に来なくとも、インターネット情報などで、法制度や解決案を調べてからご相談に来られる方も増えております。こうした一定程度の知識を持っておられる相談者の方々に対し、弁護士としては、具体的事案において、どの方法をとればどのような結果が生じ得るのか、リスクや問題背景を踏まえてお伝えする必要があります。

訴訟とすべき事案、訴訟外で話合いにすべき事案、様子を見るべき事案、無視すべき事案、どの類型であればどうすべきといったものはありませんので、皆様のご希望に沿うように、共に解決方法を考えていきたいと思います。

本年もどうぞ宜しくお願い致します。



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